はじめに
糖尿病の診療では様々な検査を行い、その検査結果を基に患者さんの状態を評価したり、その後の治療方針を決定していきます。
患者さんご自身にも検査結果を理解していただくことにより治療効果も高まりますので、当院で実施している主な検査についてそれぞれご説明します。
血液検査
血糖値
血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度を表します。
同じ日に測定しても、直前の食事内容や食事から血液検査までの時間によって、数値が波の様に変動します。
一般的に70mg/dL未満で低血糖、180mg/dL以上で高血糖とされ、個人差はありますが300mg/dLを超えると口渇や頻尿などの症状、500mg/dLを超えると吐き気や意識障害を認める場合があります。
◍ 空腹時血糖値:朝食を食べず(夜から朝まで10時間以上絶食後)に測った血糖値で、値の変動が比較的少なく出ます。
70~109mg/dLで正常値、126mg/dL以上で糖尿病型(糖尿病疑い)と判定されます。
◍ 随時血糖値:食事からの時間を決めずに測定したときの血糖値を随時血糖値と呼びます。 食後は誰でも血糖値が高くなるため、140mg/dL未満が正常値です。 200mg/dL以上ある場合は糖尿病型(糖尿病疑い)と判定されます。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合(%)を示します。赤血球の寿命は約120日ですが、その期間の血糖値が高い程、ヘモグロビンとブドウ糖がたくさん結合して高値となります。
採血時から遡って過去1〜2ヶ月間の血糖値の平均と相関し、直前の食事や運動の影響を受けないため、外来で血糖コントロールの指標として利用されます。基準値は4.6%~6.2%で、6.5%以上で糖尿病型(糖尿病疑い)と判定されます。7.0%以上の状態が続くと合併症を発症する可能性が高くなると言われています。
グリコアルブミン
Cペプタイド
膵臓でインスリンを作る過程で切り離される物質で、インスリンと同量が血液中に分泌されるため、インスリンの分泌能を評価できます。
基準値は 0.6~2.0ng/mL程度で、0.6ng/mL未満の場合はインスリンの分泌能の低下が著明なため、糖尿病の治療の際にインスリン注射が必要となる場合が多くなります。
抗GAD抗体
1型糖尿病の70~80%で陽性となる自己抗体です。基準値 は5.0 U/mL未満で、5.0U/mL以上の場合は陽性(=1型糖尿病)と判定します。発症前から血液中に検出されるため、発症予知のマーカーとしても用いられます。
尿検査
尿糖
血液中の糖が尿中に排泄されたものを指します。 糖は腎臓の尿細管で水分とともに再吸収されるため、通常は尿に糖が含まれないですが、血糖が異常に増加して腎臓の限界を超えると、尿糖が検出されます。
一般的に、血糖値が160〜180mg/dLを超えると尿に糖がでてくるといわれています。
検査の結果は(-)~(4+)で示され、(-)(±)は異常なし、(1+)~(4+)は異常ありと判定します。
※SGLT2阻害薬を内服中は、血糖値や腎臓の働きに問題が無くても尿糖が陽性となります。
尿蛋白
血液中には蛋白が含まれており、一部は腎臓でろ過されて尿中に出ますが尿細管で吸収され血液中に戻ります。
正常では尿蛋白は出てもごく少量ですが、腎臓や尿管に異常があると、多量の蛋白が尿中に漏れて蛋白尿になります。
検査の結果は(-)~(4+)で示され、(-)(±)は異常なし、(1+)~(4+)は異常ありと判定します。
異常を認めた場合は、慢性腎臓病、腎炎、尿路感染症など腎臓や尿路系の病気が見つかる手がかりになります。
※高熱が出た時の熱性蛋白尿や起立性蛋白尿、一過性の過労等で陽性となることがあります。
微量アルブミン尿
アルブミンは血液中の蛋白の一種で、腎臓の糸球体が痛むと尿へ漏れ出てきてアルブミン尿として検出されます。
尿蛋白と比較して、アルブミン尿は早期の障害、特に糖尿病による腎臓の病気の糖尿病性腎症の早期発見につながるとされています。
正常アルブミン尿:30 mg/gCr以下、微量アルブミン尿:30~299 mg/gCr、顕性アルブミン尿:300 mg/gCr以上 と分類され、微量アルブミン尿の段階で治療を行うと比較的コントロールがしやすくなるのに対して、顕性アルブミン尿になるとコントロールや治療が難しくなると言われています。
合併症の検査
頸動脈超音波検査
頸動脈は比較的皮膚から浅い位置にあり、動脈硬化の程度や頸動脈の狭窄の程度を調べることができます。
心臓や脳の血管を調べるにはCTやMRIなどの大きな検査が必要ですが、この検査で全身の動脈硬化の程度を推定する事ができます。
腹部超音波検査
糖尿病や高脂血症などの生活習慣病に合併しやすい脂肪肝、慢性肝障害、膵炎の有無など、腹部臓器(肝臓・腎臓・膵臓・脾臓・胆嚢)の状態を調べる検査です。
血圧脈波検査(血管年齢)
動脈硬化症のスクリーニング検査です。
動脈の硬さ(baPWV)、下肢動脈の詰まり具合(ABI)、血管の老化度(血管年齢)を調べることができます。
CVR-R間隔検査(心拍数変動検査)
糖尿病の患者さんに多くみられる、自律神経障害の程度を調べる検査です。
健康な人は息を吸う時に脈拍が速くなり、息を吐く時に脈拍が遅くなります。この変化「=ゆらぎ」はごくわずかですが、心電図の波の間隔を解析して数値化したものがCVR-Rです。
糖尿病で自律神経がダメージをうけると「ゆらぎ」がなくなってきて、CVR-Rの値が低くなります。CVR-Rが2.0%以下の場合、自律神経障害があると判定します。
骨密度測定
1型糖尿病の方で約3~7倍、2型糖尿病の方で1.3~2.8倍、大腿骨近位部骨折のリスクが高くなるといわれています。また女性では、閉経後の50才前後から骨密度が低下し骨折の危険性が上がります。
当院では、X線を用いて手の骨とアルミニウム板を同時に撮影するDIP法で骨密度を測定しています。大腿骨を測定するDEXA法に比べて精度はやや劣りますが、放射線の被ばくも少なくできます。