インスリンについて
インスリンは膵臓のβ(ベータ)細胞で作られる、血糖を下げる働きのあるホルモンです。 健康な人では、食事によって血液中のブドウ糖が増えると、膵臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ取り込まれてエネルギーとして利用されます。 インスリンには血糖値を調整する働きがあり、インスリン注射は、このインスリンを外部から補う治療法です。
インスリン治療が必要な時
・膵臓からのインスリン分泌がほとんどなく、生きていくためにインスリンの補充が必須となる方
・血糖値を下げる飲み薬だけでは血糖を適正な範囲に保つことが難しい時
・肝臓、腎臓、膵臓などで重い障害を合併している時
・高血糖が原因でこん睡状態になっている時
・糖尿病合併妊婦、または妊娠糖尿病の方で食事療法だけでは血糖コントロールが不十分な時
・重度の感染症にかかっている時、外科手術を行う時
インスリン療法の概要
膵臓からのインスリン分泌には、1日中少しずつ分泌される「基礎分泌」と、食事などの血糖値の上昇に応じて分泌される「追加分泌」があります。
1型糖尿病では「基礎分泌」と「追加分泌」がともに障害されています。
2型糖尿病では「追加分泌」が障害されることが多く、さらに進行すると「基礎分泌」も障害される場合があります。
インスリン療法は「基礎分泌」と「追加分泌」からなる健康な人のインスリン分泌パターンを再現することを目標としており、「足りないインスリン量を、足りない時間帯に補充するために」インスリンを注射する必要があります。 患者さん一人一人の血糖値とインスリン分泌の状態にあわせて、インスリンを1日1~4回注射し、血糖コントロールの安定を図ります。
インスリン製剤について
インスリン製剤は、その作用時間や内容によって下記の6種類に分けられており、それぞれを組み合わせて使用することが多いです。
インスリン療法の実際
患者さん一人一人のインスリン分泌能力、血糖値の状態、体の状態に合わせて、使用する製剤、回数、量を決めます。開始後は、血糖値の推移、投薬に対する反応などをみながら少しずつ調整を行います。インスリン製剤の投与方法には、いくつかの種類があります。
(1)強化インスリン療法
主に1型糖尿病の患者さんに対して、生理的なインスリン分泌のパターンに近づけることを目標として、基礎分泌と追加分泌の両方を補います。 基礎分泌を補うために持効型や中間型インスリンを、また、追加分泌を補うために速効型や超速効型インスリンを使用します。インスリン注射と合わせて血糖自己測定を行い、インスリン単位数の調整を行います。低血糖への対応を知り、実行することも大切となります。
(2)その他のインスリン療法
飲み薬だけでは血糖値のコントロールが難しい方に行います。 インスリンの基礎分泌は比較的保たれていているものの、食後の血糖値が高い方に対しては、食事前に超速効型や速効型インスリンを使います。 一方で、基礎インスリン分泌が不足している方では、飲み薬に加えて持効型や中間型インスリンを併用します(BOT療法:Basal Supported Oral Therapy)。 他にも、1日2~3回の混合型インスリン製剤の使用など、いくつかの選択肢があります。
(3)持続皮下インスリン注入療法(CSII:シーエスアイアイ)
持続皮下インスリン注入療法(CSII)は、携帯型インスリン注入ポンプを用いて、インスリンを皮下に持続的に注入する治療法です。食事ごとの追加インスリンは、ボタン操作で量を設定し注入します。 従来のインスリン療法で血糖コントロールが難しい場合や、低血糖が多い場合、血糖コントロールをよりよくしたい場合などに有効と考えられます。 複数回のインスリン注射でも血糖コントロールが不安定な糖尿病の方や、手術を控えていたり、妊娠中などで厳格な血糖コントロールが必要となる方などが適応となります。