血糖値に対する運動の効果
有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖がどんどん細胞の中に取り込まれ、インスリンの効果が高まり血糖値は低下します。また、筋力トレーニングによって筋肉が増えることでも、インスリンの効果が高まり血糖値は下がりやすくなります(=インスリン抵抗性の改善)。ただし、運動をやめてしまうとその効果は3日程度で失われていきます。 一方、血圧を上げてしまうような高い強度の筋力トレーニングは心臓や腎臓に負担がかかり、かえって害になります。やみくもにたくさん運動をすればよいというわけでは無いため注意が必要です。
どんな運動が効果的?
インスリンの効果を高めて血糖値を下げる運動には、有酸素運動と筋力トレーニングがあります。 一般的には、中等度の強度(ややきついと感じるくらい)の有酸素運動が勧められます。筋肉量を増加し、筋力を増強する筋力トレーニングも同様に効果があると言われています。最近の研究では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることによって、より良い効果が生まれると報告されています。ただ、運動を急に始めると思わぬからだの不調が生じますので、ストレッチや準備体操を十分に行い、最初は軽い運動から始めていきましょう。 膝の痛みや腰痛をお持ちの方は、荷重による負担が少ない水中運動や椅子に座ってできる運動がよいでしょう。
有酸素運動
ウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動です。歩行では、1回15~30分間を1日2回。日常生活での歩行と合わせると、歩行での運動療法は1日5千歩~1万歩程度を目標にしてください。
筋力トレーニング
足や腰、背中の大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を使って週2~3回の筋トレーニング(1セット10回程度)を行うことが推奨されています。しかし、糖尿病の状態が悪い方やご高齢の方が、血圧が上がるような強度の高い筋力トレーニングを行うと、かえって血管や心臓の負担になることがありますので注意してください。
運動のポイント
◍ 運動の強さ
ややきついと感じる程度が良いと言われています。脈拍数は運動の強度の目安になりますので、脈拍数を測りながら運動するとよいでしょう。脈拍数の目安は、以下のカルボーネン法の計算式を用いても計算できますが、
目標心拍数=(最大心拍数※−安静時心拍数)×運動強度(%)+安静時心拍数 ※最大心拍数=220−年齢
普段は以下の脈拍数を目安にするとよいとされています。 59歳以下 … 120拍/分、60歳以上 … 100拍/分
◍ 運動の頻度
少なくとも週3日、できれば毎日実施してください。 1回につき20~60分、1週間に150分以上 行うことが推奨されています。
◍ 運動の時間帯
食後30分〜2時間の間に運動を実施するのが、食後高血糖を抑えるために効果的とされています。ただ、患者さんによっては仕事などで食後の運動が難しい場合も多々あります。そのため、個々のライフスタイルに合わせて運動時間を設定することで、運動をできるだけ継続することが大切となります。
高齢の方の運動
高齢の方にとって、定期的な身体活動や歩行などの運動は、血糖値に対する効果だけでなく、大血管障害の予防、認知症の予防、寝たきりの予防などの健康寿命を延ばすのによい効果があります。 家事、買い物や散歩、ラジオ体操などで日常の身体活動を増やしましょう。また、軽いジョギング、ラジオ体操、自転車、水泳など全身を使った有酸素運動を無理のない範囲で行いましょう。
運動で気をつけること
食事療法と運動療法はセットで考える
運動で消費されるカロリーはそれほど多くないため、運動後に食欲が増して必要以上にたくさん食べてしまうと、かえって糖尿病の状態を悪化させる可能性があります。そのため、食事療法もきちんと行わなければ運動療法の効果は不十分となります。
低血糖に注意する
インスリンやSU薬を使用している人は低血糖に注意が必要です。運動をする時は低血糖の症状に注意し、ブドウ糖や補食を準備しておきましょう。
足に合った靴を選ぶ
運動の時は、足に合った履き慣れた靴を使いましょう。神経障害を合併している場合、足の異変や傷に気が付きにくくなります。また運動の前と後で、しっかり足の観察をすることも大切です。
運動を禁止する、あるいは制限した方がよい状況
運動療法によって、様々な良い効果が得られる場合が多いですが、下記の状態の時は一旦中止して主治医の先生とご相談ください。
・血糖値が高いとき空腹(空腹時血糖≧250mg/dL)
・脱水がある時
・ケトン体が陽性の時
・感染症がある時
・自律神経障害が進んでいる時
・網膜症が進んでいるとき、眼底出血がある時
・腎臓の病気が進んでいる時
・足に進行した潰瘍や壊疽がある時
・重い心臓病(心筋梗塞など)や肺の病気がある時
・骨や関節の病気を持っている方